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第31話 蓮
「上原、田上はどこだ?」
そろそろ帰ろうかとデスク周りを片付けていたら、部長から声をかけられた。
「主任は今日は用があるからと、帰宅されましたが」
そう答えると部長は少し困った顔をして、一瞬考えたように見えた。
「上原、丸山電機の件お前わかるか?」
「えっと、はい。どんな事でしょう」
「今日の午後丸山電機へ行ってたよな?今、丸山電機の粉飾決算の一報が入った。何か様子変わったこととか無かったか」
丸山電機はうちの部署でも大口の取引先のひとつだ。ここの経営状態は即売り上げに影響する。
「すみません、今日初めて挨拶に伺っただけですので、何も私では分かりかねます。今、主任に電話してみます」
五回、六回……コール音は鳴るが返答ははい。
もしかしたら出られない状況かもしれない。とりあえず分かりませんと部長には答えるしかない、電話を切ろうとした瞬間に主任が出た。
「はい、上原か。何かあったのか?」
いつもより声のトーンが低い気がする、機嫌が悪いのかな。
「あの、今部長がいらして、丸山電機の粉飾決算の情報が入ったと。どうすれば良いですか?」
「とりあえず正確な情報収集が必要だか、今何かすぐにできる事はない。現在の取引高と売掛残。それと契約書を揃えておいてくれ。朝一で会議になるとっ…お、思うから」
え?最後、何か言葉が変だった?
「はい、分かりました。主任?大丈夫ですか?」
なぜか少し主任の息が荒い気がする。
「な、何でもない、切るぞ」
電話が切れた。あれ?もしかして、具合が悪いのかもしれない。だから早く上がったのか、だとしたら申し訳ない事をした。
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