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第35話 蓮

   朝、目覚めて驚いた。瞼が少し腫れてしまっている。書類は結局、渡せずに持って帰ってきた、揃えとけって言われた書類はプリントアウトされ、会社ではなくここにある。  パソコンの中に同じデータがあるとは言っても、揃えろと言われた書類さえ出来ないと思われるのは絶対に嫌だ。  けれど、この顔で会社にいくのもはばかられる。 情けない。メガネとマスクで隠してみても、目元だから隠れない。  ニット帽を深めにかぶりとりあえず会社に向かう。  「ごめん、今日ちょっと体調悪くて休むから課長にそう伝えておいて」山中さんにそう伝えると急いで会社を出た。主任に会わずに済んでほっとした。  通勤ラッシュを逆行しながら考える。昨日、涙した理由を。明日から会社どうしよう。  自宅に戻るとテレビで丸山電機の粉飾決算のニュースをワイドショーでやっている。大きなフリップを使って説明してくれる解説者のおかげで良く今回の概要が解った。会社でもこれくらい分かりやすい説明してくれると良いのなと思いながらテレビを見ていた。  何もやる気が起きなくて、これじゃあ社会人として半人前以前だと反省したが、やる気が起きないものは仕方ない。ベッドに横になっていたら、眠ってしまったようだ。  携帯のバイブ音で目が覚めた。寝ぼけて相手も確認しないまま電話に出た。  「……ぁ?誰?」  「上原、電話の出かたからやり直しか?それともそんなに風邪具合が悪いのか」  「うぁあっ!」叫んで電話を投げてしまった、主任だ。慌てて携帯を拾う。  「すみません。風邪?あ、風邪ですか?えっともう大丈夫です」  俺はいつから風邪をひいた事になったんだろう。マスクのせいだろうか。  「資料ありがとう、具合が悪くないならそれでいい。明日は来られるか?」  主任の声聞いただけで嬉しくなる。心配してくれたんだ。そう思うと、なぜかお腹の真ん中があたたかくなった。

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