39 / 336

第39話 蓮

 自宅で朝食を摂る。朝食を抜くのも、栄養補助食品で済ませるのも止ようと思う。グラノーラとコーヒーだけだが、今までよりましだ。自分では大躍進だと思っている。  そして、あのコーヒースタンドに行くのも今日から止める事にした。と言うよりも、正直もう行く事はできない。  なぜあれだけ惨めな気分になったのか、その本当の理由を突きつけられるのが怖いから。  久々に混雑した電車で会社まで気持ちが上がらないまま行く。  これじゃ駄目だ、しっかりしなきゃいけないと思っていたら。「おはようございます!」と、必要以上に元気な声が出た。  「あ、上原くん。もう具合は良いの?」  山中さんが嬉しそうに近寄ってきた。  「良かった元気そうで。上原くん、金曜日の夜なんだけど空いてる?」  同期の何人かで飲みに行くから行かないかと誘われた、どうせ予定も無いからと行くよと返事をした。  その時。ふと誰かの気配がしたと思って振り返ると主任が立っていた。  主任は「おはよう」といつもの様に声をかけてくれた「もう大丈夫なのか」と、俺の頭にポンと手を置いた。  主任の手の感触が髪の先から伝わりぞくぞくと腰に下りた。  「あっ」と、小さく声が出た。自分でその声に驚いて慌てて口を押さえた。  微妙な空気が流れて、すみませんと謝る羽目にった。そして無意識に、主任を目で追う自分に苦笑してしまった。

ともだちにシェアしよう!