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第40話 匠

 「じゃあ金曜日の7時半に駅前のシャークスでね」  元気そうな上原の顔を見つけて安心して、そばに寄った俺の耳に届いたのは待ち合わせ時間と場所だった。上原が同期の女性と出かける約束をしているところだったのだ。  紺野は勘違いしているが、俺は別に上原の恋人でも何で間も無い。  だから上原が誰とどこに出かけても関係無い。無いはずだが、何故かこのとき腹が立った。  自分に問う、「何に焼きもちを妬いているんだ?金曜日の夜に上原が誰と出かけようと問題ないはずだ」そう問題ない。そして、いつもの様に挨拶する。  髪を触った時に「あっ」と聞こえた上原の声が、なぜか色を含んで聞こえた。そんなことはあり得ないが、そう聞こえてしまった。  「すみません」と小さく呟く声が可愛いと思う。  「ああ、そうだ。上原、課長から次の出張に同行させるように言われたんだが、体調が悪いなら今回はやめておくか」  そう聞くと俺のセリフの「出張に同行させる」と言うところで、表情が明るくなった。振っている尻尾まで見えそうだ。  そして「今回はやめとくか」と言った瞬間に、寂しそうに小さくなる。  「主任、もう体調は万全ですので、是非同行させて下さい」  本当にこいつはいつも必死。いい子だと撫でて欲しいんだろう。  「それなら出張の稟議書あげておけ。もう課長は承認済みだから判をもらうだけだ」  「あ、それと出張のチケット手配は総務に。木曜の朝一の飛行機で俺と同行と。東洋電機だから一泊になるからな」  「はいっ」  上原は元気に返事をすると、デスクに向いパソコンを立ち上げて嬉しそうに仕事をしている。  たったこれだけで俺は面倒な出張が楽しみで仕方なくなった。

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