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第42話 匠

 上原の隣の席に座る。一緒に出張してるのだから当然なのだが、なぜか嬉しい。少し動いた時に上原の手が触れた。その場所から身体中に暖かさが広がる。  俺がどう思っていようと外に見えるわけじゃない。頭の中で何を考えようと勝手だ。幸せな気分に浸っていたら、飛行機が一瞬揺れた。機内アナウンスが流れると、横の上原の体が強張るのがわかった。  「どうした? 気分でも悪いのか?」  上原は少し苦しそうな顔をしている。冷や汗をかいているのか、顔色が悪い。  「飛行機、少しだけ苦手なんです」  声が震えている、力もない。  決して揺れて楽しいものではないが、飛行機では時々ある事だ。そんな事に緊張する姿さえ可愛いと思える俺はかなり重症だ。  その時上原が泣きそうな顔をしながら訴えてきた。  「主任。あの、気持ち悪くなってきました。どうしましょう」  頼られたのだから仕方ない、そっと上原の手を握る。  「大丈夫、俺が乗っているからこの飛行機は落ちないよ。憎まれっ子世に憚るって言うだろう?」  上原は俺の手をぎゅっと握りしめて、目を瞑った。  緊張して目を閉じる。ああ、この顔。覆いかぶさりたくなるような欲求が起きる。  俺は違う意味で緊張しているようだ。飛行機が滑走路に滑り込むまで、上原は握った俺の手を離す事がなかった。  着陸しぐんと重力がかかる。その時に初めて俺の手をまだ手を握っていた事に気が付いた上原は慌てて手を離した。  「すみませんでした」  耳まで赤く染まっている、大の男が恥ずかしいよなとふと可笑しくなった。

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