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第44話 匠

   さて、どうしたものか。  実はホテルのシングルベッドが苦手で、いつもダブルの部屋を取ってもらっている。もちろん経費節約とやらで総務の上は煩いが、そこは上手く立ち回っている。  二人で眠れない事もない。上原とは同じベッドで眠ったこともある、別に変な意味はないし問題ないはず。ホテルのベッドは俺の部屋のベッドよりかなり小さい。その距離を考えてしまう。  上原と同室でダブルベッド。いや、変な意味はない。仕方がないからだ、そうそれだけ。それでも本当に他意がないのか自分でも分からない。  「上原、仕方ないから今日は俺の部屋で休め」  「主任、ありがとうございます。ソファでも大丈夫です!明日は帰るだけですから!」  ああ、仔犬が飛び跳ねている。鍵を受け取り嬉々として後をついてくる上原を見て嬉しくなった。  しかし、部屋に入るとやはり狭い。というよりベッドで部屋はいっぱいだ。ソファと言えるものは無く窓際の小さい応接セットがあるくらいだ。  部屋の真ん中に居座るベッドに何故か心拍数が多くなる。  このままではまずい、そう思ったのは上原もなぜか同じようだった。二人でベッドを見て凍りついてしまっている。  緊張している上原に声をかける。シャワーを浴びて来るからと、頭をポンと軽く叩いたら何故かびくりと上原が跳ねた。  バスルームから出てきたら上原がいない。どこに行ったんのかと思っていたら、コンビニの袋を下げて戻ってきた。  「主任、少し飲み直しましょう」  酎ハイの缶とおつまみを申し訳け程度の壁際のテーブルに乗せた。二人並んで座る。窓の外には明るすぎることもなく、寂しすぎることもない夜景が川に沿って流れるように広がっている。  「本当に主任には迷惑ばかりかけて、申し訳ないです」  心から申し訳なさそうに言う上原。これは、ささやかなお詫びのつもりらしい。可愛い後輩に付き合ってやるのも悪くないか。さすがに素面で上原と同じベッドで寝るのも辛い。

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