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第46話 匠
まるで捨てられた子犬のような目をして、あの人は主任の恋人なのですかと聞かれた。その瞬間に理性の壁が決壊した。
自分で自分の行動に驚いた。
しかし、上原を抱きしめた腕は振り払われることはなかった。俺はこの先どうするつもりだ。
「い、いや、悪い」
慌てて手をほどく。上原はじっと俺を見つめてから寄りかかるようにしてすっと目を閉じた。
えっ!?
眠ってしまったのか?まさか、このタイミングで?
冗談じゃない。肩を掴んで、上原を揺する。「ん?」小さい声を出してぼんやりと俺を見つめる。ああ、焦点が合ってない。
「上原、お前、毎回この調子じゃ俺の身が持たない。起きろ!」
「し、しゅにん?どうかしたのですか?」
「お前、さっき自分が何を言ってたのか覚えているか?」
聞いても首をかしげてぼんやりとしてる。わざとやっているのじゃないかと勘ぐってしまう。どれだけ仔犬に引っ掻き回されなきゃいけないんだ。
ため息が出た。スーツのまま放っておくわけにいかずネクタイとメガネを外してベッドに寝かせる。
俺は一体何回こいつの服を脱がせているんだろう。そう思いながらシャツのボタンに手を伸ばす。ボタンを一つ外す毎に自分の心のボタンも外れていく。
自分の気持ちも丸裸にされそうだ。
髪の中に手を埋める。ワックスで固めてないサラサラの髪が指の間をくすぐる。ベルトに手をかけながらこの先どうしようと一瞬固まってしまった。スーツは皺になると困るはず。だから皺にならないようにしてやっているだけだと、自分で自分に言い訳する。
上原に声をかけてベルトを引き抜きズボンを脱がせる。
ああ、脚の形も良い、好きだなそう思った時には、俺の手は上原の太ももの内側を滑っていた。
断食状態の肉食獣の前に、供えられた無抵抗な小動物状態。据え膳食わぬは男の恥だよなと、訳の分からぬ言い訳をして上原に覆い被さった。
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