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第50話 匠

   失敗した。  止まめられなかった、理性などとうにゴミ捨て場に捨ててしまっていたのだ。  上原は後悔してるだろうか。事後、落ちるように眠りについた上原の体を綺麗にしてやる。ぐったりと力が抜けた上原に服を着せるのも面倒で、そのまま裸で抱きしめて眠る。  人の肌に触れて眠るこの時間、何より安心する。今日はベッドが狭く感じない。そう思いながら夢の中に落ちていった。  携帯のアラーム音で目をさました。隣にいる上原に手を伸ばすと、そこにはひんやりとしたシーツの感覚しかなかった。  跳ね起きると、上原の姿はそこには既になかった。上原の荷物も消えている。  時刻は7時を指していた。  すぐに上原の携帯の番号を呼び出した。何度コールしても上原は出ない、そして電話は留守電に繋がった。  「どこにいる?連絡しろ」  それだけ伝言を残すと改めて部屋を見回す。窓の前のテーブルに小さなメモがあった。  「申し訳ありません、お先に戻らせていただきます」  たった二行のメッセージ、これはどういう事なんだろう。悶々としながら空港に向かう。  ホテルをチェックアウトする時に、フロントで確認はしたが何時に出たのかは不明だった。 あいつ飛行機に一人で乗れるのかと空港へ向かう。カウンターで尋ねてみたが、上原のフライトはキャンセルも変更もされていない。本当にどこにいるんだ?  行きは隣におとなしく座っていた忠犬は脱走しどこかへ消えてしまった。隣の空いた席を見ながら昨日の夜の事が原因だとしか考えられなかった。  もしかしたら、俺は自分の都合よく勘違いしていただけで、上原は上司の俺に単に抵抗できなかっただけなのだろう。  俺はどんな顔をして上原に会えば良いのだろう。

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