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第57話 蓮
同じ道を通って玄関から出る。紺野さんは携帯をしっかりと握りしめて下向きで電話をしている。相手はやっぱり主任なんだろうな。
そのままそっとその場を通り過ぎる。せっかくの金曜日なのにこんなに気持ちが重いなんて。
「あのさ……同期会って、言ってなかったっけ?」
シャークスに入って案内されたテーブルは4人掛けだった。
「んと。上原君と、木下君と、佐野さんと私?」
何で疑問形なのかな。4人で同期会ねえ。確か俺達の同期はその十倍以上いるはずだけれど。
「で、木下君と佐野さんがキャンセルで」
どういう事だ?つまり2人ってことか。今回の企画は木下だと言う。急いで木下に電話を入れると、二人で上手くやれよ笑われた。山中さん脈ありだからお持ち帰りしろよって。してやられた。
「どうする?上原君、帰る?」
帰るかと聞かれて、そうだねとも言えず。せっかくだから食事していこうかと答える。山中さんが嬉しそうに笑った。こういう笑顔にほだされるんだよな男って、普通は。ついこの間までの俺だってそうだったはずだ。でも俺の頭の中には主任と紺野さんの事がぐるぐると渦巻いてて、食事の味もよくわからなかった。
山中さんはコロコロと笑う、鈴みたいだ。
主任が笑うと、何故か俺の周りの空気だけが共鳴して、さわさわと風が耳をくすぐる。今頃、あの笑顔は紺野さんに向けられているのかもしれない。
まずい、さっきからずっと主任の事を考えている。
「主任ってカッコ良いよね。狙ってる女子も多いんだよね。まあ、私はもっと現実的なんだよね。そんな夢見てても歳だけ取っちゃうしね」
それまで山中さんの質問に生返事をしていたのに、俺は何故かこの話題には一番反応してしまった。
「狙ってるって?」
「んー、仕事できて優しいでしょう。で、彼女もいないみたいだし。結婚に持ち込みたい先輩多いんだよね」
そっか、そうだよな、結婚相手か。
主任が相手ならって、俺が隣に立ってる図を想像してどうするんだ。
「そろそろ帰ろうか?」
そう切り出すと、山中さんがちょっとだけ困った顔をした。
「今日はありがとう。あの、もしよかったら、また一緒に食事にでも出かけない?」
別に食事くらい構わないか、家帰ってもどうせ一人。
「そうだね、また今度。今日は楽しかったよ」
山中さんがにっこりと笑った。
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