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第59話 蓮

 山中さんと別れて駅へ向かう。  木下からメッセージが来た「上手く行ったか?」と、短いメッセージとハートのスタンプ。男からこんなスタンプもらってもなと思う。  ん?やっぱり俺は男が好きなわけじゃないよな。  なんで主任からの連絡にはドキドキするんだろう。主任の事を考えていたら身体の中心が熱くなる。主任の手を思い出して身体が反応する。どうしよう、やっぱり俺は。  駅を降りた時、主任の事が頭をよぎる。少し商店街に用事があるだけ。そう自分に言い訳して主任のマンションの方へ向かって歩く。偶然会うこともあるわけだし、別にわざわざ会いに来た訳じゃない。  いつの間にか主任のマンションの前に来てしまった。酔いがさめるのを待つためにここにいるだけで他意はない。  そうだよな、俺は別に。  二十分か三十分ほど経った時、一台のタクシーが目の前に止まった。  「あ、しゅに……」  声をかけようとしてその言葉を飲み込んだ。もう1人の男性がタクシーから降りてきた。紺野さんだ。紺野さんは主任にもたれかかるようにして歩いている。  見なきゃよかった。  知らなきゃよかった。  こんな気持ちなければ良かったんだ。この喪失感に名前をつけるとしたら失恋っていうのかな。  俺、こんな所で何してるんだろう。主任は「連れに逃げられるまで二人暮らし」と、言っていた。  それって紺野さんの事。別れたとは言っていなかった。戻って来たんだ。痴話喧嘩に巻き込まれただけだったのかもしれない。元に戻ったのなら俺は邪魔な駒。ゲームからおりなきゃいけない。  帰ろう、ここには俺は居ちゃいけない。

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