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第61話 蓮

 土曜日ひとりでアパートにいても何もする事ない。だから、久々に実家に帰ってみた。新しい家族をはめ込んだ、二世帯住宅のその枠には俺のパーソナルスペースは全くなかった。  誰もが喜んでくれたが、まるで人の家にお邪魔しているような錯覚に陥る。お茶を出してくれたのは母ではなくて兄さんの嫁さんって事も変な感じがした。  「蓮、あのな、お前来年おじさんになるからさ」  少し照れたような兄貴の顔が本当に嬉しそうだった。  「え?そうなの?おめでとう。兄貴が親父ね、変な感じだな」  「何を言ってるんだ。お前だっていつかそうなるよ。そういやお前、今彼女いないの?社会人一年目じゃ忙しいか?」  言われで心がチクチクする。  「いや、俺は今仕事に精いっぱいで彼女とかそんな余裕ないなあ」  「あら、蓮はそんなに早く結婚しなくていいわよ。まだまだお母さんの可愛いチビちゃんでいいじゃない」  母親の言葉に苦笑いする。好きな人いるけど男の人だよと言ったらどうなるのかな。可笑しくなってついクスッと笑ってしまった。  「何?もしかして今か誰かのこと思い出した?好きな子はいるんだな」  兄貴の的確な指摘に驚いた。  「や、え?いや、いないって」  なぜか変に焦って強い口調で否定すると妙な空気が流れた。  「蓮、人様から後ろ指さされるような事だけはしないでね。そんな事はないと母さん信じてるけど」  母親にそう言われて返事できなくなってしまった。仕事もあるし俺は、そろそろ帰るわと実家を出た。

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