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第68話 匠

   「アズマ商事の紺野と申します。いつも息子がお世話になっております」  紺野って、康介の義父なのかと驚いた。  「お仕事中に大変申し訳けないのですが、息子が消息不明で。自宅に戻っているものとばかり思っておりましたが、実家にも連絡さえないとの事でして」  もしかして国際電話なのかと考えた。  「すみません。話がよく見えてないのですが、紺野康介さんが行方不明という事でよろしいのでしょうか?」  「ええ。私が思い当たるのは田上さんだけですので。こうして、連絡させていただいた所存です。康介の所在をこ存知でしたら教えて頂けないでしょうか」  紺野の義父によると、突然出て行くと書き置きしていなくなり、それ以来消息を絶っているという。そして、日本に帰国してすぐ会社に退職願いを提出してしまい今は連絡さえつかないらしい。  どこへ行ったのか不安になったが、東京とニューヨークと言う距離が邪魔して探すにも探せなかっようだ。何とか無理して帰国したが、後三日でニューヨークに戻らなくてはならないという。何とか連れて帰りたいとの事だった。  今、預かっていると告げると、安心したのか電話の向こうの声が柔らかくなった。  出来れば直接会って話がしたいと言う。  「分かりました、今日の夕方何とか連れ出します。どちらへうかがえばよろしいでしょうか?」  夜の約束を取り付けて電話を切る。あいつは一言もそんな事を言っていなかった。今朝は会社に行くふりをしてどこへ行ったのだろう。

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