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第69話 蓮

 すぐに主任が会議室から出てきた。何の用事だったのだろう。難しい顔をして悩んでいるように見える。  主任はおもむろに鞄から携帯を鞄から出してエレベーターホールへと出て行った。仕事中に私用電話をするのは見たことがなかった。珍しい事もあるんだと思う、多分相手はあの人なのだろう。  デスクに戻ってきた主任は何か複雑な表情。  「上原、悪かったな。今日の午後のアボちょっと日程変更にしてもらうから。それと、今日はちょっと用事ができたから、早退する。急ぎあったら携帯に連絡くれるか?」  早退するんだ、主任。さっきの電話のせいなのかもしれない。もやもやしてくる。何の苛立ちか解らないが、落ち着かない。  ちらちらと紺野さんの存在が見え隠れする。主任とあの人の関係は何なのだろう。どうしたらいいのだろうか。このままじゃダメだ。  「主任、あの、金曜日の夜ってお時間取れますか?」  主任はいつものように笑うと、俺の頭を軽く叩く。  「金曜日か、ああ、時間空けるよ。大切な後輩のお誘いだしな」  主任の手が触れたところから暖かいものが広がっていく、大丈夫だと安心させてくれる。やはり、一度きちんと話をして、自分の気持ちを確かめたい。そう決めたら何だかすっきりした。

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