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第71話 蓮

 主任は今頃どこで誰といるんだろう。なぜか紺野さんの妖艶な顔が脳裏に浮かぶ。 「金曜日、金曜日に」と自分に言い聞かせる。けれど、どうやって告白すればいいのさえわからない。  「あ、上原じゃん。今日、何時あがり?飯一緒に行かないか?」  木下の誘いはいつも突然だが、家に帰っても食べるものなんかない。コンビニ弁当よりはましだろうと付き合うことにした。  「今月そろそろ金ないから、定食屋なら付き合うけど?」  「上等、俺もそこまで余裕はないし。じゃあ仕事に目処ついたら内線くれる?」  そうだ木下に相談しよう、あいつ彼女確かいたよな。混雑した定食屋で、焼き魚をつつきながら仕事の話や休みの話など他愛もない話をする。 「木下の彼女って、もう付き合い長いの?」  さりげなく聞いたつもりが、飲みかけの味噌汁を詰まらせて木下が咳き込む。  「あ、あのさ。実はその事でお願いがあるんだけど、この前お前が電話してきた時に出た子の事なんだけど」  「ん?彼女じゃないのか」  「いや、その。あの時ナンパしたって言うか勢いって言うか。あの子とはあれ一回きりだから内緒にしといてくれないかな。実は総務の佐野さんと付き合う事になって。いろいろと、わかってくれるよな?」  「え?総務の佐野さん?」  「そう、山中とお前をくっつけようとしていたら、こっちが先にそうなっちゃったって言うか、何というか」  「そうか佐野さんか?へえ、で?どうやって告白したの?」  「え?お前も告白すんの?だったら絶対に断られないから大丈夫だよ。好きです。付き合ってくださいって素直に言えばいいだろ」  いや、相手は山中さんじゃないんだが。そうか、素直に言えばいいのか。  「ありがとう。木下、何かすっきりしたよ」  そう言うと木下は親指を立てて、頑張れよと笑った。そして、その日は食事だけでお開きとなった。  素直に告白か、今迄は来るもの拒まずだった。自分から積極的になど一度もなかった、緊張する。今からこれで大丈夫なのだろうか。

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