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第81話 蓮
そういえば、昨日は寝てない。もう、既に意識が飛びそう。
二晩くらい徹夜でもなんとかなるはずなのだけれど、今はもう気だるさに引きずられて深い淵に落ちていきたい。
気だるさと浮遊感に力が抜けた、その身体が主任に引き寄せられた。
仰向けにされ、まるで蛙のように脚が開かれる。腰がぐっと主任の方に引っ張られた。
「えっ?あ、あ嘘。無理、し、しゅにんっ」
指よりも質量のあるものが、身体を押し広げて入って来た。体が緊張して息が苦しくなる。
「蓮、いい子だからゆっくり息吐いて。そう上手」
主任の手が頭を撫でてくれる、気持ち良い。
「力抜いて、俺に呼吸を合わせてごらん」
身体に力が入ると、主任の顔が歪む。主任もつらいのだろう。言われたように主任に合わせてゆっくり息をする。
呼吸が重なり、まるで一人の人間のような感覚になる。ああ、主任と今ひとつだ。嬉しい。そう思った瞬間に満たされて感情が溢れてしまう。
「主任、本当に好きです」
「主任じゃない、匠って名前がある」
膝裏を主任の手が押している、ものすごい格好なのに嬉しくて仕方ない。
「たくみさん、好きです」
「我慢できそうにないんだけど、動いても平気?」
一生懸命に頷いた。幸せで、幸せで。
今まで本当に人を好きになったことなかったのかも知れない。こんな気持ちは知らない。溶けちゃうってこんな感じなのか。そう思ったらふっと深い淵に落ちていった。
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