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第83話 蓮
起き上がろうとして、腰が痛むのに気が付いた。ああ、主任が笑っている。
どうしたらいいのか、本当に動くのが辛い。それより裸だという事実が……。慌てて布団をかき集める。
「今、お湯を溜めるから風呂に入ろうか?まだ時間もあるし」
入る?じゃなくて、入ろうか?ってまさか一緒ではないですよね。
「はい」と、声が小さくなる。
「コーヒーは?そのままそこに居ていいからね」
ありがとうございます、言われなくても今動けません、主任。
携帯の着信音が鳴った。
「上原、お前の携帯だ」
主任が、ぽんとこちらに携帯を投げてよこした。画面には名前ではなくて番号が出ている。登録してない相手という事だ。
「はい?」
「もしもし、上原君?」
何故、山中さんが番号を知ってるのかと不思議になる。
「えっ、山中さん?な、何?」
主任の顔が真っ直ぐ見られない。
「今日か明日、もし良かったら出かけない?この前無理に夕食に付き合ってもらったお礼もしたいし」
「あの、実は今出先で。その、今日は出かけられないって言うか。明日も多分無理、かと」
「そっか。だよね、急にゴメンね。また明後日会社でね」
電話を切ると、深いため息が聞こえた。
「付き合いだした翌日に、お前もう浮気?」
いえ、主任違いますから。ベッドサイドの眼鏡を取って携帯を確認する。木下からのメッセージがあった。
『山中さんにケー番教えといた!うまくやれよ』
余計な御世話だ。画面を横から覗き込んだ主任がまた鼻を鳴らした。
「へえ、なるほどねえ」
携帯取と眼鏡を取り上げられた。そしてひょいと主任に抱えられる。お姫様抱っこって、俺はされる立場なの?こんなに恥ずかしいものだとは夢にも思わなかった。
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