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第112話 匠
上原がもし単なる会社の先輩としてだけ伝えるのならそれはそれで良い。
もしも、正直に話すのならそれもそれで良い。今までも認めてもらえない恋愛しかしてこなかった、今更だ。
「兄貴さ、さっき母さんたちと話していた、恋人のことなんだけれどさ」
「え?なぜ今その話なんだ?」
兄弟の会話がキッチンにまで聞こえてくる。
「ん、今だからその話なの。俺の付き合ってる人は、匠さんなんだ」
上原のお兄さんは凍り付いたように動けなくなった。上原はなぜか照れている。本当にこいつはいつも直球ストレート。
キッチンで盛大なため息が出た。
「な、何を言ってるんだ?蓮、お前、自分の言っていることがわかってんのか?」
そうなるよな、もう一つため息が出る。
コーヒーを持ってリビングに戻る。
上原のお兄さんは呼吸困難に陥ってる。あふあふとする顔が似てる、そんな不謹慎な事を思ってしまう。
「お前はっ、お前は自分が一体何を、何を言ってるのか解ってるのか?」
「解ってるよ、だから説明してんじゃん」
兄弟喧嘩が始まりそうな勢い。
「そ、そこの君っ、君は幾つだ!」
「26です、もうすぐ27になりますが」
「俺と同じ歳だ、いい大人が一体、どういうつもりなんだ!俺の弟を拐かして!」
いや、拐かしたつもりは無い。ないけれど、男と付き合ってます。はい、そうですかとは、いかないのも良く知っている。
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