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第113話 蓮

 「蓮、帰るぞ。お前は、少し頭冷やせ!そこの君も、もっと、まともな事をしたらどうだ!」  「兄さん、君じゃないよ匠さんだから。まともって何?人を好きになるってまともな事でしょう」  頭でっかちの兄には通じるはずがないかもしれない。  けれど、まともじゃないなんて酷い言い方だ。主任は黙って言われるがままだし。  「お兄さん、すみません。すぐにご理解頂けないのは解りますが、本気ですから。私にとっては蓮と一緒にいる事が、一番まともな事なのです」  主任の言葉にお腹の中心が熱くなる。嬉しくて飛びつきたい所だけど、さすがに兄の目の前じゃ無理だろうか。  「父さんと母さんには言わない、お前が冷静になって考え直す事を信じている。田上さん、あなたが手を引いて頂けないのでしたらこちらにも考えがあります」  「兄さん!脅すのは無しでしょう。俺は帰らないよ、今帰ったって何も解決しない。母さんたちに話せって言うのなら俺は言うよ」  「何を馬鹿なことを言いだすんだ。そんなこと言えるか、冷静になれと言っているんだ」  「お兄さん、蓮が離れたいと言うのでしたら考えます、けれどこちらから手を離す事は致しません」  主任に熱烈な愛の告白を受けてる気分だ、何だか嬉しい。  「兄さんの事、信用して話したんだから」  「蓮、……解ったとは言ってはやれない、残念だが。この話しばらく俺が預かる。できれば年内に家に戻って欲しいところだな」  兄さんがこの反応じゃ母さんに理解してもらうなんて夢のまた夢だな。

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