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第114話 匠
「蓮、お前は直球すぎるんだよ。いきなりでお兄さん心臓が止まりそうだっじゃないか」
上原のお兄さんは最後は何も言わず、振り返ることもなく出て行ってしまった。頭を下げた俺の方を一瞥はしたが、それだけだった。弟を連れて帰れなかった理由をご両親には何と説明するのだろう。
「すみませんでした、嘘ついてもその後苦しいだろうなと思って。それに嘘がものすごく下手なんです。そんな事より、匠さんお腹空いていませんか?」
まったくこの若い恋人は、こいつに振り回されっぱなしだ。でもそれが嬉しく思える。
「どうする?チャーハンを温め直せばいいのだろうけれど、もうなんだか……まずそうだな」
「いろいろありすぎて、眠気飛んでしまいました。外に出かけますか?何か食べに行きますか?」
「いや今ものすごく違う飢えが来てるんだけど?俺は、蓮を補給しないとだめだ。ピザ注文するから、届くまで俺の膝の上な、ここ」
そう言って、膝をぽんぽんとたたくと一瞬下を向いて恥ずかしそうな顔をした。
「えっ、匠さん、何もしないですよね。……どれだけ体力あるんですか。俺はもう無理ですから、これ以上は絶対無理です」
しばらく抱きしめていたいと思っただけだが、その反応に笑いがこぼれた。
「外に出る体力あるんでしょ?冗談だよ。何もしないから、ここにおいで」
無理ですから、と言ってた上原は自分の言葉に照れて、ほんのりと頬を染めて色めいている。
どちらが翻弄されているのか分からない。振り回されているのは確実に俺だろう。
……もう手放すなんてできない。
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