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第118話 匠

 「蓮、何も見えないんだけれど、電気つけても良い?」  「無理です、嫌です」  この会話はこれで三回目、せっかくの可愛い姿は見せてもらわなきゃいけいはずだ。  「なあ、今日は俺の誕生日なんだけど」  「で、でも、や……です」  蓮とのじゃれあいのような会話が楽しくてからかっているけれど、別に許可は取るつもりない。それに明らかにその態度は煽ってるだけだろう。  暗闇に目が慣れてきて薄っすらと浮かぶシルエットがかえって色っぽいってこと事に気がついてないのか。煽られてこの先の展開を考える。  玄関に座り込んだまま体を捩って逃げようとする恋人を腕の中へと囲い込み、その肌を指でなぞる。  「た、匠さん。んっ、や……めて」  もう「匠さん、好きにしていいです」としか聞こえない声のトーンになっている。右足の踵で左の靴を押して足から飛ばした、左足にひっかけて右足の靴も脱いだ。俺の両手は恋人の身体をホールドするのに忙しいから靴までは回らない。  肩口に顔を埋めるとまだ新しい木綿の匂いがする。わざわざ俺のために買ってきたんだと思うと顔が緩む。このまま床に押し倒したい欲求を何とか押しもどす。  「で?俺のプレゼントはいつになったらもらえるの?」  「あ、テーブルの上に置いてあります」  「蓮、違うだろう?このエプロンの中身が一番俺の欲しいものだよね。せっかく可愛く包んでもらったから開けさせてもらわなきゃいけないよね」  「えっ、それって……え?」  薄暗くて表情は殆どみえないけれど、上原の上擦った声の調子でどれだけ赤くなっているのか容易に想像できる。  ああ、楽しくて仕方ない。

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