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第125話 蓮
目が覚めたらとっくにお日様は登っていて、目の前にいる主任がピンクの布をヒラヒラさせて笑っていた。
「おはよう蓮、朝ごはんを待っているんだけれど?」
……?
主任は何を手に……?
……あ、ああああ!あれは、見紛うことない昨晩のエプロン。
「あの、匠さん。眼鏡と服を取っていただけませんか?」
「はい、蓮の眼鏡とエプロンね」
やっぱり、そんな気はしてた。
でもこんな健全な朝にありえない。絶対にありえない事でしょう。しかし、辺りを見回すけれど服は無い。
そういえば昨日、シャワーを浴びる前に脱いだ。当然、全て脱衣所にあるはず。新しい下着も当然脱衣所の棚。
シーツを巻きつけて起きればいいと思い、身体にシーツをかける。
「蓮、それは服じゃないよ」
主任、エプロンも服ではありません。多分何を言っても無駄な足掻き。
「はい、これ」
そんな笑顔で渡さないて下さい。もうすでに情けなくなってますから、そう思いつつ、仕方なく主任の希望通りの格好でキッチンに立つ。
料理の出来ない俺は、トースト焼いてコーヒーを淹れるのが精一杯のシンプルな朝食。
主任は後に立って満面の笑みで見つめている。
「いい眺めだよね」
そっと寄ってきて、背骨を指でなぞっていく。
かくんと膝から力が抜けた、ぐらりと倒れそうになった俺の体をつかんで支えながら主任が嬉しそうに笑った。
「蓮、朝メシ後でもいいけど?」
いえいえ、ケーキもプレゼントも放置になってますから。
「パン焼けました!はいテーブルに座りましょう」
照れ隠しに大きな声を出して、主任の背中をぐいっと押した。
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