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第126話 匠

 「あれ?ケーキが」  「ああ、冷蔵庫に入れてあるよ」  そう伝えると上原は嬉々として冷蔵庫からケーキを取り出してきた。いや、朝からケーキって。  違う意味での甘い物は大歓迎なのだけれど、朝飯にケーキは辛い。数字のキャンドルと、その横にはちょこんとサンタクロースが。  「この時期のケーキって、クリスマスケーキしか売ってなくて。でも、何だかこのサンタ可愛いから良いかなって思ったのですが」  本当に嬉しそうに笑っている。こんな普通の幸せがある事を教えてくれるその存在自体が愛おしい。  「ちょっと待っていてくださいね、さすがにもう服着たいですし」  まあ、悪戯が過ぎたとは思っているが。つい、意地悪したくなるあいつが悪いと思っている。なんでも真に受け過ぎなんだ。俺がついてなくてどうすると思うほど人を信じやすい。  戻ってきた上原は、手に何か箱を持っていた。  「これ、使ってください」  渡された箱には財布が入っていた。  「今、匠さんが使ってるの少し傷が目立つなと思って。もしも良かったら……」  今使っている財布は以前、紺野に贈られたもの。そう言えばコートもこいつに選んでもらったと思い出す。少しずつ上原の色が身の回りに広がっていく感覚が心地良い。  「ありがとう、使わせてもらうよ。それと、これは俺からのクリスマスプレゼント。俺の子犬に首輪つけておこうかと思ってね」  「えっ、く、首輪ですか?」  上原は恐る恐る包みを開いた。まさか本当に首輪だと思ったのだろうか、そして箱の中に入っている時計を見て嬉しそうに笑った。  「さすがに本物の首輪じゃね。さて、そろそろケーキいただくか」  目の前のケーキのクリームを少し指ですくって上原の口へと持っていく。  「はい、蓮。口開けて」  一瞬驚いた表情をして、その後赤くなりながら俺の指をぺろっと舐めた。もう一度、多めにすくって指を出す。  一生懸命に舐める姿が良い。クリームをもう一度すくうと上原の唇に塗る、そして今度は唇ごとクリームを舐めてとった。  そのまま、ついばむように軽い口づけを繰り返すと上原の顔が上気してきた。甘い吐息がもれてくる。  「ごちそうさま、ケーキ美味しかったよ」  物足りない顔をした上原を見て満足する。それから素知らぬ顔をして上原の淹れてくれたコーヒーを手にした。

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