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第128話 匠

 ようやく今年も終わる。仕事納めの後、最後が忘年会というこの会社のスタイルはどうかと思うのだが仕方ない。  今までは気にもならなかったことが気になって仕方ない。上原に酒を飲ませるのが少々心配なのだ。  「蓮、酒は飲むなよ」  小声で注意する。変な色気を振りまかれてもたまらない。  「えっ?」  驚いた顔をした上原をもう一度目で牽制する。え?じゃないだろう。前科を忘れたのかあいつは。そもそも俺に拾われたのも泥酔して意識がない時。日本酒を飲んだ時も、出張先でも、思い出すと危なかしいことしかない。  会社ではあくまで上司と部下なので上原にだけ構っているわけにはいかない。本部長に呼ばれてしばらく話に付き合わされていた。席に戻って上原を見ると、課長の横に座らされたために酒を飲むなと言う俺の指示は無理だったようだ。  「上原、お前は結構酒を飲むだろう。どうした?今日は大人しいな」  「いえ、課長。しっかり飲んでます」  この調子じゃ今日も抱えて帰る羽目になりそうだ。  ため息が出てくる。  大っぴらに手元に置けるわけもない恋人を見つめる。  一次会が終わる頃には上原の顔は酒でほんのり赤くなっていた。色っぽいなと、そう思うのは俺だけだろうか。  「一旦ここでお開きにして、二次会へ移動な」  課長は家に帰りたくない事情でもあるのか、今日はこのまま帰してはもらえないようだ。  面倒なことになる前になんとか退散させてもらいたいところだ。

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