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第136話 匠

 上原の背骨をひとつひとつ確認するように、ゆっくりと指でなぞる。  「……ん」  上原に食事をさせるつもりだったのに、完全に熱がこもった身体は違う飢えを訴えている。全てにおいて素直な上原は快感にも素直で、一度火がつくと妖艶な生き物になる。  普段は決して痕を残さないようにしているその肌にいくつもの薄い後を散らした。強く心臓の上にキスをして紅く染める。  「も……や。た、くみさん?」  「お腹空いたよな、蓮?食事にするか?」  自分で煽っていて、その目が何を訴えているのか知っていても言わせたい。俺が欲しいと言って欲しい。  「食事じゃない、匠さんが先が良い。たくみさんが」  自分でその言葉を待っていたのにも、上原の口からその言葉が漏れてくるとぞくぞくとする。  昨晩から愛し合った身体はすぐに一つになれる。お互いがお互いを必要として溶け合っていく。  たとえ泣いても、逃げ出しても放してはやれない。どこにも行かないで、俺の腕の中にいて欲しい。結局、上原の声が掠れるまで離せなかった。  「もう、指も動きません」  さすがに無理させすぎたかもしれない、上原は気怠そうに体を投げ出して肩で息をしている。どうしても上原の負担の方が大きいのは分かっているのに。  「何か飲むか?持ってきてやるよ」  「あの、炭酸水をお願いします」  上原がここで過ごすようになってから、冷蔵庫の中身が変わった。ビールと水しか無かった冷蔵庫に炭酸水がいつも入っているようになった。何の味もしない炭酸水のどこが美味しいのか良く分からないけれど。  一本取り出して手渡す、よほど喉が渇いていたのか上原は一気に飲み干した。  「いった、空きっ腹に一気に飲んだらから?かな」  自分の腹をさする仕草が子供っぽくて可愛い。  「すぐに食べられから、ベッドまで持って来てやろうか?」  「あ、大丈夫です。きちんと食卓で食べますから」  そういや上原の食事の仕草は綺麗だったなと思い返す。立つのも少し辛そうだったから手を差し伸べてやる、上原は少し照れながらその手を取って立ち上がった。

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