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第137話 蓮

 改めて考えると主任に妬いてもらったという事なのだろうか、もしそうだったら嬉しいかもしれない。  正月から無理させて悪かったなと、主任が少し決まり悪そうな顔をして謝ってくれた。けれど歯止めがきかなかったのはお互い樣だと思う。  今は人混みに出かけるのも嫌だから、新聞の折り込み広告を床に広げてウインドウショッピングならぬ広告ショッピング中だ。  この服似合いそうですね、そんな他愛もない会話が楽しい。  うつ伏せに寝転がった俺の身体を半分覆うように、横に居る主任の体温が伝わってくる。  とくとくと静かに背中から伝わってくる規則的な心臓の音、それが今ここに自分が生きている意味を教えてくれている。  何でもない時間がこんなに穏やかだなんて知らなかった。  「んー、何か幸せだなと思うよ」  小さく耳元で囁かれて、お腹の底がきゅうっと縮んで、暖かいものが生まれた、それが体の中に広がっていく。主任も同じ事考えてたんだ。  なぜか涙が出そうになる、今まで嬉しくて泣いた事は一度も無いはず。こんなに感情が揺れる経験はしたことがない。  「初詣に行こうか?この近くに神社あるんだけれど、もしも蓮が歩くのが辛くなかったら少し出かけようか?」  「歩くのが辛く無かったら」と、言われてさっきまでの自分の痴態を思い出した。あまりの恥ずかしさに、真っ赤になってしまった。  二人で並んでゆっくり歩く、周りの喧騒も全く聞こえない。ただずっと一緒にいられますようにと神様にお願いする。  普段は不信心だから何もお願いした事は無かった。  「初めてのお願いです。神様聞いてください。匠さんと出会わせてくれてありがとうございます。このまま、ずっとずっと続きますように」

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