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第139話 連

 今日は帰りが遅くなる。帰りにちょっと寄る所があるからと主任からメールが来た。仕事中に連絡してくるのは珍しい。そもそも俺と主任じゃ帰宅する時間はもともとかなり違う。何か起きたのかなと少し不安になりながら眠れずに待っている。  11時になっても戻ってこないし連絡もない。もしも仕事の付き合いならこちらから連絡したら迷惑だし。でも仕事始めの最初の日に接待なんて聞いたことないし。  電話するべきなのか、待つべきなのか、とうろうろとしていたら玄関のドアが開いた。  「おかえりなさい」  主任の首に飛びつくと木蓮の香りを打ち消す強いアルコールの匂いがした。  「珍しいですね、どうしたんですか?」  訝しげに聞く俺の頭をいつものように優しく軽く叩くと大きく息を吸い込んで主任が微笑みながら言った。  「蓮、家に帰れ。今日は遅いから明日な。荷物は週末にまとめて送ってやるから大丈夫だ」  それだけ言うとすっと離れてシャワーを浴びるからとバスルームへ行ってしまった。  「あれ?俺、何かやらかしてしまったのかな」  いわれた事の意味が解らず軽く呼吸困難になる。神様にお願いしたばかりだというのに。普段から信じてないのに都合よすぎたたのかもしれない。リビングの空気が急に冷たく感じる。  主任が戻って来るのを待ってきちんと話聞かなきゃ。このまま眠れるわけがない。  リビングのドアが開いて主任が戻ってきた。  「匠さん、俺何かしましたか?どうして戻らなきゃいけないのですか?」  「お母さん具合悪いそうだ。心の問題だそうだ。戻ってやれ」  「なぜその事匠さんが知ってるんですか。様子は明日見にいくつもりだったけれど。でも、家には帰りません!」 「蓮、お母さんの事知っていたのか。なのになぜすぐに帰らなかった?そうか、そういう事か」  「ごめんなさい。別に黙っているつもりはなかったけれど母さんいつも大げさだから、冬休みは主任とずっと一緒に居たかったんです」  「ダメだ。一旦帰れ。中途半端な気持ちで付き合ってないと理解してもらうまではここには戻って来るんじゃない。今、きちんと説得できなければ一生すれ違う。俺と同じように家族を失くしたいのか?」  きつい口調に反論できない。もしも両親を説得できなければ、どうなるの。今戻ったらアパートも確実に解約させられる。それだけなら未だしも、会社自体辞めるよう言われるかもしれない。それを解っていて避けてきたのに。

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