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第145話 蓮

 「あら連、おかえりなさい。帰ってきたのね。今日は泊まっていきなさいよね」  ものすごい元気じゃん母さん。まあ、大袈裟じゃなくて今回は嘘だったからなあ。主任はきっと心配してるだろう。連絡しなきゃいけない。  「母は元気です。明日、そちらへ戻っても良いですか?」  そうメッセージを打ち込んで、バックスペースキーで途中まで消した。  「母は元気です。ご心配をおかけしました」  書き直して、主任に送った。おじいちゃんに言われた通りだ、まずはきちんと父さんと母さんに理解してもらう。  「今日はちゃんと話をしたいから家にいるよ、ところで父さんは何時に帰ってくる?」  「今日はお父さん帰らないわよ、明後日まで出張よ」  母さんに説明するのが先か、おじいちゃんはにこにこと笑っていて知らん顔だ。  「母さん、あの、あのさ。俺、いま付き合ってる人がいるんだ。だから、他の人と結婚とかできないよ」  「それはこの間も聞いたけれど、きちんとした家のお嬢さんなんでしょうね」  「いや、根本的に違うって言うか」  嘘をついたって一時しのぎにもならない。  「ちゃんとした人なんだけど、まあ、何て言えばいいのかな、女性じゃないんだ」  最後は一気に言い切った。  「え?蓮、今何て言ったの?」  「だから俺の付き合ってる人は、男の人って事」  「な、何を馬鹿な事、親をからかうのも良い加減にしなさいっ!」  「母さん、落ち着いて話を聞いて。馬鹿な事は言ってないよ。俺が初めて本当に好きになった人だよ。母さんにも会ってもらいたいんだ」  「そんな……そんなこと、聞く耳持ちません!」  母さんはそれ以上何も答えずに、真っ青になって珍しく音を立てながら扉を閉めて部屋から出て行ってしまった。

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