147 / 336
第147話 蓮
「あのさ、母さん。昨日の話なんだけれど」
「知りません」
ごとんと大きな音を立てて夕飯の皿が目の前に置かれた。おじいちゃんと兄さんの分、そして俺の分。その三人分だけを並べると、自分の部屋に入って行ってしまった。心配して、おじいちゃんを連れて来てくれた兄さんも困った顔をしている。
「母さんに何か言ったのか蓮?」
「んー、まあ。男の人と付き合ってるって言ったら口聞いてくれないんだよね」
「えっ?お前はまったく、どうしていつもそう直球なんだ。根回しとか、考えないやつだな」
兄さんが盛大にため息をついた。
「嘘はつけないし、どうやったって同じ結果だよ」
「蓮、それで良いんじゃないのか?」
そう言いながら、おじいちゃんは相変わらずにこにこしている。兄さんだけが苦虫をか噛み潰したような顔をしている。
「これからは美智子さんとお前の根くらべになるだろうな、さてどちらが先に折れるやら」
折れる気は全くない、母さんに折れてもらうしかないんだ。けれど時間はやはりかかるのか。今日の夜一人で眠ると思うだけで気が重い。
「兄さんはもう怒ってないの?」
「怒れば別れるっていうのなら、怒るけど。俺が何を言ってもどうせ無理なんだろ、俺は諦めたってことだな」
「おじいちゃんは?」
「どうせ私は先に逝く。お前が幸せなら何でも良い。だが、本当にこれで良いと納得させて欲しいもんだ」
そうか、敵ばかりじゃない。主任に電話してから眠ろう。好きだと言う気持ちを会えない時も伝え続けることが大切なんだと思う。
ともだちにシェアしよう!