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第148話 匠

「おはようございます」  朝から元気な声が響く、上原が出社してきたと何故か変に緊張する。意識してゆっくり呼吸しながら自分自身を落ち着かせる。今は会社、あいつは部下と頭の中で繰り返した。 「ああ、おはよう。上原、少し奥の会議室で打ち合わせ」  軽く上原の頭に手を乗せると、顔を崩して笑う。「新規顧客の販促な」とリストを手に立ち上がると上原がにこにこしてついてくる。  「上原、お前の資料はどこだ?」  「ああっ、主任すみません!」  頭を下げて慌ててデスクに戻る後ろ姿を追う。「あいつは、まったく。何しに会議室行く気だよ」と思った瞬間自分も計算機をデスクの上に忘れていたことに気が付いて思わず苦笑いした。  会議室のドアを後ろ手に閉めると呼吸数が増えた。  上原のネクタイを引っ張ってぐっと身体を寄せる、素直に目を閉じる上原に軽く口づける。 すっと離れると、縋るような目をする。少し開いた唇の間から舌を差し込むと舌を絡める。  「んっ」  上原の息が誘っている、これ以上はさすがにまずい。いやもうまずい。  軽くコンコンとドアをノックする音がした、その音に慌てて上原を解放して椅子に座る。  「どうぞ」  そのノックに返事をすると、コーヒーを2つ持った課の女の子が入ってきた。気の利く子は嫌いじゃないが、今は正直甚だ迷惑だ。  「コーヒーお持ちしました。あれ?上原君どうしたの?」  その言葉に上原の方を振り返ると、少し上気した顔でぼんやりと宙を見つめている。具合が悪いのかと声をかけられる始末だ。  「上原、お前は寝ぼけてるいのか?座れ」  冷静に声をかける、こんな様子じゃこっちの心臓がもたない。声をかけられ慌てた上原が赤くなりながらストンと俺の隣の席に座った。なぜ真横に座るんだ。  「上原……、お前の席はあっち」  会議机の反対側を指差した。  「ああっ!」  自分のした行動に驚いた上原が叫びながら立ち上がった。

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