153 / 336
第153話 蓮
「母さん、今の人が」
話しかけた途端「知りません」と怒ったような返事が聞こえた、黙々と前だけを向いて歩いていく。本当に頑固だよこの人はと思いながら、俺もそうかと少しおかしくなる。
「ねえ、俺ってやっぱり母さん似だよね」
「似ていません」
母さんは相変わらず取り付く島もない。ああ、俺の母親らしいんだろうな。
「俺さ、理解してもらえるように努力はするけれど、どうしても理解してもらえないなら。その時は諦めるしかないよね。多分、家族より匠さんを選ぶよ」
「あなた、自分が何言ってるかわかってるの?」
「うん、絶対に譲れないって事」
「いつもそう。親の心配を他所に、あなたはいつも」
盛大にため息をつかれた。なんかすごく疲れているみたいで申し訳なく思った。
そのまま母さんは家に入ると、真っ直ぐに自分の部屋へと行ってしまった。疲れた顔をしていたけれど、母さんはきちんと食事をしてるのかと心配になる。
何かできるかなと思うけれど、特に何も出来そうもない。けれど、カレーなら作れると、冷蔵庫をのぞくと材料がある。飲み物を探す以外で家の冷蔵庫見たことなかったなと思う。
この前やった通りと思い出しながら、作る。米を研いで炊いておく。
終わった時には既に夜中の一時を回っていた、キッチンにはカレーの良い匂いがしている。
静かに台所のドアが開いた。
「蓮?あなた何してるの?」
驚いた顔の母さんにカレーの鍋を指差してみせる。
「いや、ご飯食べてないんじゃないかなって。これ、明日でも食べて。ご飯炊いてあるからお茶漬けでも食べない?俺も付き合うからさ」
「料理なんて、いつからするようになったの?それに人の心配まで出来るように、あなたも少しずつ成長しているのね」
何故か母さんは涙ぐんでいた。
ともだちにシェアしよう!