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第159話 蓮

 嵐のような金曜日の夜の出来事は、翌朝には晴れて溶け出した雪と同じように流れてしまった。一体どういう結果になったのかわからない。とりあえず、実家に帰ることは決定したようだ  土曜日の朝、主任と俺だけが朝食のテーブルについた。兄さんは自分たちの部屋だし。父さんは起きてこない。  母さんが準備したサンドイッチとスープが出された。  「ありがとうございます」  お礼を伝える主任にほぼ無言の母。小さく「いいえ」と言うとダイニングからいなくなった。二人でコーヒースタンドにでも行けばよかったと思ってしまう。  静かに食事を済ませながら主任の顔をチラッと見る。穏やかな表情に安心するけれど、それ以上に抱きつきたい衝動にかられてしまう。 「匠さん、帰るんですよね?俺も荷物の整理があるから一緒に行っても良いですか?」  その言葉に隠した裏の意味をきちんと理解してくれた主任は、少し笑って頷いてくれた。  食器を流しに戻して「出かけてきます」と声をかける、誰の返事もない。絶対に母さんには聞こえているはず。「仕方ないよ」と主任に言われ諦めてコートを着る。  この1週間の長かった事。本当に大変だったなと思う。それでも主任の手を離さずにいられた事に嬉しくなり、つい顔がほころんでしまう。  「ん?どうしたの?ニコニコして?」  「やっぱり匠さんの事、ものすごく好きだなあって思って」  「そういう可愛い事言われると、蓮が大変な事に後でなっちゃうけど。わざとなのかな」  耳元で囁かれる、そう言う主任の顔は本当に楽しそうだった。でも、大変な事って何?

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