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第160話 匠
上原のアパートの荷物と合わせて、俺のところの荷物も送り返さなくてはいけない。そのために今日は部屋の荷物の整理に来たはずなんだが。
上原は玄関のドアを閉めると同時に飛びついてきた、かまってほしいと全身で訴えている。家族に認めてもらえそうなのか、微妙な時期なのに上原はにこにことしていて嬉しそう。
「蓮、荷物の片付けの方が先だから」
押し戻す自分の腕に力が入らず、自分の期待が見え隠れして、諦めて流される事にした。
一旦家に帰すと約束したからには守らなきゃいけない。
「荷物片付ける体力は温存しとけよ」
上原は首筋に鼻を埋めて匂いを嗅いでいるのか、マーキングしてるのか舐めるように丁寧に口づけをする。
「……ん。それ、匠さん次第ですから」
それだけ言うと今度はシャツのボタンを外して鎖骨に沿って小さく何度も軽い口づけをする。
ここまで煽られて、そのまま放置できるほど淡白じゃない。腰をつかんで引き寄せる。
「俺はここでも良いけれど?ベッドとどっちがいい?」
「ここだと少しきついかもしれません」
そう言って笑うとやっと靴を脱がさせてくれた。部屋の中の空気が、アイスキューブのように冷たく、ダウンを脱いだ上原が一瞬寒そうにぶるっと震えた。寝室のヒーターのスイッチを入れる。
素早く上着を脱ぐと毛布を羽織って上原を腕の中に囲い込んだ。背中から抱きしめるように腰に手を回してベルトを外してやる
「匠さん、あたたかい、ですね……」
「そうだね、蓮。きっと直接肌を重ねたらもっと暖かいよ」
少し赤くなるのが可愛い。玄関先でむしゃぶりついて来たあの勢いはどうしたと、少し大人しくなった子犬の背中に問う。毛布の中で戯れるように、寝室の床の上でもつれ合う。お互いに相手の服を一枚ずつ取り去っていく。
「蓮、気持ちいいね」
人の肌は直接触れ合うようにできている。身体中が磁石になったように引きあうような気がする。
「ただいま匠さん」
身体を反転させて俺の胸に両手を這わせ頬を重ねながら小さく上原が呟いた。
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