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第162話 匠

 いつの間にか上原に翻弄されるようになってきた。砂が水を含むように何でも染み込ませていくその素直さにのまれる。全ての刺激を快感に変えて溺れていく姿を見ながら、今更ながらに愛おしさばかりが募っていき胸が苦しくなる。  「どうしたらいいですか……も、苦しいくらいに好きです」  誰に何を言われてもこの愛しい人を手放せるとは思えない。何を引き換えにしても失いたくない。    「蓮、どこへもやらない。大丈夫、俺はいつもここにいるよ」  そうやって語り掛けながら、上原の熱に引き摺られて峠を越える。上原も昨日の緊張からの疲れもあったのだろう。一つに溶け合ったまま、うとうとと眠ってしまったようだった。  ふと目が覚めると、とっくに昼は回っていた。  腕の中には安心して眠る恋人という最高の目覚め。軽くこめかみに口づける。  「蓮、お腹空かないか?」  揺するようにして起こしてやる。上原は気だるそうに動いて目をこすった、その幼い仕草がやたらと可愛い。  「少しだけお腹空きました。でもその前にシャワーを浴びないと大変な事になりそうです」  シャワーじゃこの時期まだ寒いだろう。  「分かった、風呂を沸かしてくるから。もう少しだけお利口にしていて」  そう言うと髪をくしゃくしゃと触り、立ち上がった。

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