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第163話 蓮
動きたくない。と言うより動けない。身体が透明になって溶けてしまったみたい。主任より若いのに何故か体力では負けているようだ。
「お前の負担の方が大きいから、仕方ないよ」
そう笑われるけれど、ここまで体力使うものなの。単に主任が底なしなんじゃないかと疑いたくなる。
荷物を手際よく片付けて行く主任を見ながら、悲しくなる。片付けたくないのが本音。ここにある荷物はほとんど毎日使うものが主だから仕方ないんだけれど。
「匠さん、歯ブラシとか、パジャマとか置いて行ってはダメですか?」
そのくらい許してほしい、金輪際ここに来るなと言われているみたいで嫌になる。
「我慢できなくて押し倒しといて言う事じゃないけれど、いつでもここに来られるって状況はよくない」
「どうしてですか?来るなって事ですか?」
「違うよ、蓮。俺がお前の影ばかり探してしまうから、駄目なんだよ。情けないだろう、本当の事だから仕方ないけど」
できれば今日も明日もずっとここにいたい。別に家族に宣言したし、もういいじゃんって思うのに。主任は家族にこだわる。
「ねえ、匠さん。もしも、もしもの話です。許可もらえたらここにまた引っ越してきてもいいですか?」
主任は笑って「もちろん」と、言ってくれたけれど、許可って誰が出すんだろう。
あっという間に箱に収まってしまった荷物に恨めしくなる。アパートの荷物もある程度片付けるの手伝ってくれると言われた。その荷物は業者に全て任せるつもりだから特に手伝ってもらう事もない。
片付けなんで始めたら、またそばに居られなくなる。こうやって二人だけで過ごす時間はとても大切。
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