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第165話 蓮

 朝出かけて来たはずなのにいつの間にか夕方。今日は朝食以外何も食べずにほぼ戯れてた事になる。    「俺の負けだな、いつの間にか子犬にマウントポジション取られた」と主任は笑っていた。その割には、負けた気分になっているのは俺の方。  「も、む…り。匠さん動けない、帰れませ……ん」  結局、こうなるのはわかってたけれど家に帰りたくない。このままここで寝たい、そう思っていたら本当に寝ていたようだ。荷物を運ぶために借りてあるレンタカーを受け取りに行くと言っていた主任はいつの間にか、出かけて戻ってきている。  「さて、そろそろ送るかな。眠たそうだな、助手席まで抱きかかえて運んでやろうか?」  「え……、さすがにそれは嫌です」  「じゃあ、行こうか。お腹空いただろう、これ食ってろ。俺は荷物を積んでおくから」  ほんの少しうとうとしただけなのに、いつの間にか荷物は全てスーツケースと段ボール箱に入れられていた。そしてぽんと投げてくれた袋の中には商店街で売っている中華ちまきが入っていた。  「真面目な高校生みたいですね、こんな早くに家に帰されるなんて」  一応は拗ねてみる。  「蓮、真面目な高校生はあんなセックスはしないよ」  からかわれて恥ずかしくなった。無言でちまきを頬張った。主任がくっくっと笑い出した。  「蓮、可愛いな」  そう言われてさらに恥ずかしくなってしまった。  湾岸線走って、それから早めに帰ろうと言われる。車は明日まで借りてあるから明日の朝にまた迎えに行くよと言われ、嬉しかった。  車の窓からぼんやりと外を眺める。こんな何でもない日々を重ねていきたいなと思う。  傾きかけた太陽の光が主任の横顔を浮き上がらせてその光景が眩しくて。好きだなと思いながら主任の顔を見ていたら、なぜか涙がつっと流れた。  誰かを好きだと言う感情は溢れても枯れることはなくて、もっともっと溢れ出すものなんだと初めて知った。

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