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第168話 匠

 あれから週末は一緒に過ごすことが出来るようにはなったけれど、一晩一緒に居ると言う願いはかなえられていない。いつも高校生みたいと頬を膨らませて抗議する上原を説得して早い時間に家に帰している。  たまには会えない週末もあったが、別に一緒に居ることを咎められることはなかった。ほんの少しの辛抱だと上原に伝えながら、正直音を上げてしまったのは俺の方だった。  とにかく飯が不味くて仕方ない、週末は上原がいるからまだ何とかなる。最悪なのは平日だった。食事も作る気にならないし、夜も十分に眠れない。  上原と一緒に生活していたのは、本当に短い時間だった。だから、生活を元に戻すのは容易いはずと思っていた。ところが思った以上に疲弊している自分がいた。  「田上、お前どうした?最近、調子がよくないみたいだな」  書類に目を通していた課長が、いきなり顔を上げて声をかけて来たことに驚いた。  「え?何かミスがありましたか?」  「いや、お前にしては珍しい間違いだなと思ってな」  そう言って俺の作った見積もり書をひらひらとさせた。急いで立ち上がり、受け取ると納入予定数が間違っている。  ありえない、嘘だ。  「すみません、すぐに作り直します」  「上原が休みで雑事が多いなら、山中さんにアシスト頼めよ」  「大丈夫です。すぐにやります」  そう、課長の言う通り昨日から俺の仔犬は不在なのだ。

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