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第169話 蓮
以前から入院している祖母が危篤だと連絡が入った。おばあちゃん子だった俺にとってその知らせは衝撃だった。小さい頃、父親が仕事を拡張する時に、しばらく祖父母に預けられていた俺はおじいちゃんやおばあちゃんとの距離が近かったのだ。
かなり可愛がってもらったという自負はある。ただどうしても大きくなるに連れて、友達と過ごす時間が増え、顔を出す事が減っていった。
祖母が入院したのは大学を卒業する少し前の事だった。就職先も決まり、卒業試験も無事終わっていて時間があった当時は、よく病院に顔を出していた。そのたびに、お腹は空いていないのか、小遣いは足りているのかと自分のことより俺の心配をしていた。
けれど社会人になってからは、数える程しか顔を出していない。だんだんと弱り寝たっきりになっている姿を見るがつらかった。だから仕事を言い訳にした。そのことが大きな後悔になって今のしかかっている。
急に状態が変わったと聞いた時の驚きと焦り。誰かを失うという経験は一度も無かったし、考えたこともなかった。もしかして二度と会えなくなるのかもしれないと思うと悲しくてどうしようもない。
「匠さん、しばらく祖母のそばに居てあげたいです」
会社に有給の申請をして月曜から三日間休みをもらった、連休から続けての6日の休みになる。その間は主任に会えないけれど、今だけは祖母のために時間を使いたいと思った。主任もしっかり看病してこいよと言ってくれた。
「お義母さん、蓮のお嫁さん見るまでは絶対に長生きするって言ってたのにね」
意識のない祖母の姿を見た母から、その一言を聞いた時には主任をまだ紹介できていないと悔やんだ。きっと誰より理解して応援してくれるはずなのに。俺はもう大丈夫だから心配しないでと伝えていない。返事のない祖母のその手を取って「おばあちゃん、会わせたい人がいるんです」と伝えた。
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