171 / 336
第171話 蓮
主任の腕の中は、どこよりも安心する。そこに主任がいてくれればそれだけで大丈夫。そんな気がしたら何時の間にか眠っていた。
薄い雲の中にいるような夢を見た、その雲の影から誰かが俺を呼ぶ声がする。誰?
「あ、おばあちゃん。元気になったの?」
姿は見えないのになぜかおばあちゃんだと分かった。
「そうね、もう蓮は大丈夫と思えたからほっとしたわ。良かったわね蓮、もうあなたのことを任せられる人ができたのね、安心したわ」
そう聞こえた、これは夢?それとも?
髪を優しく梳く指がある。ああ、気持ちがいい。知っている、これは主任の指、主任の手だ。寝返りをうつといつもの木蓮の香りがする。
この香りは子供頃のおばあちゃん家?それとも主任の香り?気持ちが良くて、ふわふわと浮かんでいるような気がする。
……目を開くと主任はもうそこにはいなくて、母さんがいた。
「たった今、田上さんお帰りになったわよ。寝かせておいて下さいって言われたから、起こさなかったけれど。また土曜日に来てくださるそうよ」
主任が約束通り、ずっといてくれたんだ。母さんもなぜか穏やかな表情してる。何か主任と話をしたのだろうか。
「おばあちゃん、匠さんが来てくれたんだよ。おばあちゃんに会ってもらいたかったから良かった」
そう言って祖母の手をそっと握った。いつもより自分の気持ちが落ち着いている事に気がついて笑みがこぼれた。
ともだちにシェアしよう!