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第174話 匠
俺の手の届くところに上原がいる、それだけで満たされる。こいつが俺の全てになるなんて初めて出会った頃は微塵も思わなかった。いや、思いたくなかったのか。
食事をして同じベッドで眠る、たったそれだけなのに満たされる。
手の中にいても消えてしまうのじゃないかと不安になる、規則正しく上下する胸の動きに眠っていると確認できて安心する。
明方、上原の手が体の中心に伸びてきた。
「蓮、何時?」
「五時です」
そう言いながら、その手はやわやわと人の身体を弄る、ここのところ上原は手元に居なかったし、反応するのは仕方ない。
「蓮、今日までお前は会社休みだよね?」
「はい、今日は家に一度戻りますけれど」
「それじゃ、手加減なしでいいよな」
顎を掴み少し開かせた口の中に下を差し込むと、それだけで臨戦態勢に入る恋人が可愛くて仕方ない。
「匠さん、約束ですからずっと一緒にいてくださいね」
「ん?いい加減別れてくださいと言われても無理だから、覚悟して」
唇を指先でなぞると薄く笑い口を少し開いた、その中に指を二本入れてゆるゆると出し入れする。まるで飢えた子どものように必死にその指を舐める姿がたまらない。
「ん、ん。たくみ……さ」
ああ、気持ちが良い、まるで電気が通るようにびりびりと痺れる。小さなさざ波が大きなうねりになって身体を駆け巡る。
安心する、優しい気持ちで包まれてどんどんと高揚する。
そして突然やってくる大きな衝撃。内にとどめて置けない感情が全て漏れ出して滅茶苦茶にしてやりたい衝動が来る。
左脚を持ち上げると、その膝裏に強く吸い付かれた。
「あ……ぁ」
「蓮、可愛いね」
耳朶を噛むと、ぶるっと上原の身体が震える。耳から入る情報にも弱いのは知っている。
「匠さ……すきで…す」
今日は、なぜか上原に煽られている。誘われて絡め取られて、もう雁字搦めだ。こいつは俺をどうしたいんだろう。一緒にいないと息も出来なくなりそうだ。
「蓮、優しく出来なくなるから、いい子でいて」
「でも、も……待てない…です」
「俺もちょっとな、ギリギリ……」
ゆっくりと身体を拓いて挿っていく。中にぐっと入った時に上原の身体が大きく反り上がった、軽く痙攣している。大きく喘ぐと上原は、長く息を吐いた。そして、声を抑えるようにして震えている。苦しそうにも見えるその表情は、さらに俺を煽ってくる。
ゆるゆると体を動かすと苦しそうな喘ぎ声がする。「あぁあ」と無意識に漏れてくる声は、更に互いを高めていく。熱い身体の中に自分の熱を放ち、そして溶けていく。日が昇り、漆黒からあかく染まっていく部屋の中で、暖かさと幸福にひっぱられ昇りつめていった。
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