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第177話 蓮
「蓮、そろそろ帰ろうか」
主任のその一言にどきりとした。「帰れる」んだ、主任について家を出る。車の後部座席に段ボール二箱分の荷物を載せた。必要最低限だ。そして助手席に乗る。母さんが持って行けと夕飯の残りを詰めたタッパーウェアを袋に入れて持ってきた。
「じゃあ、またね。父さん、母さん」
玄関先まで送ってくれた両親に手を振る。
「蓮、一つだけ覚えていて。何があっても私たちは貴方の味方、それだけは忘れないでね。田上さん、蓮をお願いします。本当に優しくて良い子なんです」
母さんの言葉に、泣きそうになった。主任も何故か泣きそうな顔になっている。
「はい、もちろん大切にします。なるべく蓮さんが定期的に自宅にも帰れるように配慮しますから」
「もし良ければ、田上さんも一緒に帰っていらっしゃい」
みんなに大切にされている、愛されているのが伝わってきて嬉しくなった。
「あー、俺嬉しくて泣きそう」
主任が、頭をくしゃっと掴む優しさがそこから伝わってくる。ああ、主任の手が好き。そう思って横にいる大好きな人の顔を見上げた。
「蓮、お前がいると誰でも笑顔になるんだな。独り占めしないようにしないとな」
車はすぐに幹線道路に入り、赤く並んだテールランプの川の流れのなかの一粒になった。
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