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第181話 蓮

 俺がどこに座るかで険悪な雰囲気になってしまったので、結局、助手席にはザックが、俺は一人で後ろに座る事になった。  変な気分、あの席は俺の指定席なのに。  「蓮、今晩なんだけど」  明日はザックを高校まで案内する事になっている。彼は、四月から日本の高校に通う。俺は半日有給を取っていて、今日の夜は自宅に帰る事になっていた。  「ご両親に彼をお任せすれば良いんじゃない?」  まさか主任が妬いてくれている?初めての経験で少し嬉しい。  「無理です、母が英語全くダメなんです」  ああ、主任がハンドルを指先でとんとんと叩きだした。あれは苛々いている時の仕草だ。でも、ザックが本気だとは思えないし、放っておく事も出来ない。  微妙な空気のまま家に着いた。取り敢えず、母さんに紹介して客間にザックを通す。  「ちょっと、話せる?」  主任怒っている?あの空気は怒っているよね。きっと。  俺の部屋に入るといきなり抱きしめられて、そのままベッドに押し倒された。  「待って下さい、ここじゃ駄目です。匠さん!」  母さん今入ってきたらどうするの。昼間の実家とか、公園や大通りみたいなもの。誰だって入ってくるからね。  押し戻すけど、上から押さえつけられてて動けない。今日は、譲ってくれる気はないみたい。  「さっきキスされてたから、上書きな」  えっ?キスって、あれは事故みたいなものでしょう。  両手首を掴まれたまま主任に口付けられた。ザックの触れるような口づけじゃない頭の芯がクラクラする口づけ。  「ん、んふ」  「ダメって顔はしてないよ、蓮」  「気持ち良いんです、こうやっていると全てがばらばらになりそうで」  駄目だと言っていたのに離れるのか寂しくて自分から舌を絡める。ああ、身体が浮きそうな感覚がある。  勢いよくドアが音を立てて開いた。そして、そこには主任の肩をむんずと掴み、引き剥がすザックがいた。

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