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第183話 蓮
主任は食事の後、気をつけるようにと俺の耳元で囁くと帰って行った。その後ろ姿に手を振る勝ち誇ったような笑顔のザックがいた。
「蓮、いろいろ話がしたいな。部屋に入れてよ」
可愛く甘えてもだめ。
「話ならリビングでね」
そう言って、予防線を張る。残念と小さい声で言っている。何が残念なんだ。ほんと、用心しなきゃいけない。
明日の朝は8時半に連れて行けばいいから、7時に起きれば十分だ。まだ夜10時過ぎ眠れるかなあ。
自分のベッドで眠るのは久々。本を読んでいたらウトウトしてしまった。
あ、何だろう気持ちがいい。
こうやって後ろから抱きしめられるの好き……ん?ここ自分の部屋。自分のベッド!
この手主任じゃないっ。慌てて、手を振りほどこうとしてぎゅっとしがみついている背中で泣いているザックがいた。小さく震えながら泣いている。
振り払えなくなってしまった。動けない。どうしよう。
そこに恋愛感情はなくても可愛がっていた弟のような存在だ。そしてホームシックになった時に側にいてくれたのもザックだったから。
ただ抱きつくだけでそれ以上の事は何もしてこないから、もうしばらくだけこのままでも仕方ないか。そう思っていたら背中の呼吸がだんだんと落ち着いてきて規則正しい寝息に変わった。
そっとベッドを出る。今日は客間で眠ろう。まだ子供なんだよなと思っていつも主任がやるようにザックの頭を撫でてやった。
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