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第188話 匠

 明日は帰るからと言われて喜ぶ自分がいて、驚いた。  俺はいつから、こんなになってしまったんだろう。  翌日、会社へは車で行った。もちろん上原を迎えに行くためだ。会社近くのコインパーキングに停める、今日は一緒に帰る。電車に乗っている時間さえもどかしいし、待っていたら遅くなる。  「今日、ちょっと用事がありますので早めに帰りますから」  課長に伝えると、にやにやと笑いながら返してきた。  「おや?田上、今日はデートか?」  安定の品のない冗談だ、それも気にならない。笑顔で返す。  「ええ、課長もたまには早く帰れば奥さん喜びますよ」  これ以上面倒な話にならないためには、早めに会話に終止符を打っておくにかぎる。その時、上原がいつものようににこにこと笑いながら入ってきた。  「おはようございます」  ぴょこんと頭をさげる。何で勢いよく頭さげるのかな、といつものように思う。  「はい、おはよう」  軽く下を向いた頭を、ポンと軽く叩くと、とてつもない色っぽい目で見上げてきた。上原、ここは、会社だ。勘弁してくれ。  就業時間になり、上原が仕事を終えてデスクを片付け始めた。車で来ていると伝えていないから少し慌てる。  「上原、今日ちょっと出かけるから急いで帰りたいんだけれど、仕事手伝ってもらっても良いかな?」  よし、自然に言えた。なのに何故お前が赤くなるんだ、上原。

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