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第190話 匠

 エレベーターのドアが閉まるのと、当時に尻尾を振った仔犬が飛びついてきた。顔をごしごしと俺の胸に擦り付けて来て「匠さんの香りがします」と嬉しそうに言う。  管理人がまめに防犯カメラの画像をチェックをしていない事を心より願った。本当にこいつは可愛いけれど困ったやつだ。それでも嫌な気分は全くしない。  部屋に入り、いつものように荷物を俺から受け取る上原を見ながら改めて思う。一緒にいるのが当たり前の存在になったんだと。  「蓮、こっち来て」  にこにこ笑いながらやってきた上原の眼鏡を最初に取り上げた。  「え?匠さん。これでは何も見えませんけど」  困った様に目を細める、その手を引いてソファに座らせた。  「はい、ここね」  服を脱がせ始めると、驚いた顔をする。その顔がそそる。  「匠さん、どうしたのですか?」  「ああ、浮気チェック中だ。あのガキにいたずらされてないか」  「何を言ってるんですか?きちんと客間で独りで寝ましたし、何もありません。あるわけないじゃないですか」  「それは俺がチェックするから」  何かあったら隠しておけない性格だとわかっている。でも昨日も一昨日も俺じゃなくてあいつの世話してたお前が悪い。俺が妬いている?まさかね。  鎖骨を丁寧に指でたどる。軽く目を閉じた上原が俺の指先の感覚を追いかけ始めた。顎が少し上がり瞼が揺れる。  悪戯を仕掛けたのは俺なのに逆転しそうだ。だんだん速くなっていくのは上原の心音なのかそれとも俺の心臓なのか。明る過ぎる部屋で微妙な表情まで見える。これは俺の方がやばいようだ。

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