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第200話 匠

 ああ、横山がまた来ている。いつもと変わらず大声で騒いでるが、こいつには関わらないのが一番だ。  「ねえ、俺と付き合いませんか?俺、重く無いですから、セックス込みで軽くお願いしますよ」  昨日そう誘われて、「俺には今恋人がいるから無理だと」きっちりと断った。なのにあいつは食い下がった。  「え、じゃあ紹介してくれません?その恋人って、本当にいるのか怪しいですよ」  それだけは無理だ。実は一つだけ上原に言っていない事がある。あいつとの付き合いは表に決してしないと、ご両親に約束してある。誰にも伝えないそれが条件だ。  「もしも、君と別れた時どうするのだ。息子が普通にお見合いして結婚する時だろう、万一誰かに知られたら汚点にしかならない」  もともと上原は女性と付き合っていたこともある、そう言われれば至極当然の話なのだ。だから、決して口外はしないと約束してある。  別れる未来なんて俺は選択しない。けれど、万一上原が別れたいと言った時は必ず解放すると約束させられた。そのくらいの覚悟はある、上原次第だとは分かっている。  だから誰にも言わないし、言えない。紹介しろと言われても無理な話なのだ。横山は「飯だ!」と騒ぎながら福田のところにやってきて、俺の顔を見るとにやりと笑った。  そんな表情は見えないふりをする。その時、上原が立ち上がった。  「俺も、一緒に昼行こうかな?」  え?何でお前が……かと言って止める理由が何も無いのだ。

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