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第201話 蓮

 「ここ、会社の近くで結構安くて美味しい店。おすすめだよ」  横山と福田の二人を案内したのは、小さな定食屋だ。一本裏通りに入ったところで、ランチだと肉系のメニューが多くて御飯お替り自由というありがたい店だ。  二人とも他の人のテーブルをちらりと見ながら「おお、美味しそう」と喜んでいる。  「あのさ、ひとつだけ変な事を聞いてもいいかな」  遠慮がちに声をかけると、にこにこと笑いながら横山が答えた。  「ああ、おれのことですか?もちろん、いいっすよ」  横山のこの口のき方、総務はこれで良いのか?主任が聞いたら怒り出すぞと思う。  「何だか社内でいろいろ言われてて、面倒っすよね。先輩もその事でしょう?」  ちらりとこちらの顔色を伺うように見る。  「いや、変な噂が立っているんなら、きちんと否定した方が良いかもと思ってさ」  「いえ、あの上原先輩。横山は学生の時からこうなので、大丈夫です。大学でも周りのみんなが認めてましたし」  福田が横山の代わりに答えてきた、二人は学生の時からの友達なのだと言っていた。  「大丈夫って?」  「えっと、こいつの恋人はいつも男性で……」  福田が遠慮がちに答えてくる。  「あ、一般的には俺、ゲイって言われてますけど」  堂々としている。俺はどうなんだ?こうやって主任の恋人だからと宣言する勇気はない。  「で、ですね実は、田上主任がカッコいいなって思ってるんですよ。先輩も協力してもらえませんか?」  「えっ!そ、それは」  言葉に詰まってしまう。  「だから、田上主任は違うって。そうですよね先輩」  「さあ、俺には解らないな」  答えは小声になってしまった。  いつもの生姜焼きが、今日は苦くて美味しく無い。

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