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第203話 蓮
そうか、別れる未来なんて決して無いと勘違いしていた、違うってことなんだ。少しだけ驚いた、だって別れる事も考えて付き合うって、どういう事なんだろう。
男だからとか、女だからとか、そう言う目で主任の事を見た事がなかった。唯一無二の存在だから。
あれ…?俺は、なぜ泣いてんのかな?洗面所の鏡に映ったのは、捨てられたような悲痛な顔した俺。
早く風呂入って寝るべきだ。べつに、別れ話をされた訳じゃない。ちくちくと刺さる小さな針をもった塊が胃の中にぽつんと落とされた。塊から外れたその針が、身体中を駆け巡り見えない所で血を流す。
人を好きになるって幸せな事だけじゃなくて、苦しい事でもあるんだと知った。
少しだけ、あの能天気な新人が羨ましくなった。たったそれだけのこと。
「蓮?蓮、まだ風呂に入ってる?」
外からする主任の声に慌ててごしごしと顔を拭いて風呂場に入る。シャワーを頭からかぶって全部流した。嫌な思いも全部ドレインに吸い込まれていけばいい。
ベッドに潜り込んでまた考える。「お前、俺以外の男と寝ることできるの?」そんな事言われる日が来るとは思わなかったな。俺以外は、誰を見ても駄目だよと、そう言われて当然だと思っていたから。そんなことをぼんやりと考えていたら、ベッドがギッと軋んだ。
主任の香りがふわりとする。いつものように腕が俺の腰を抱く。首筋に後ろから口づけられられた、その瞬間にコントロールできない涙がぽろぽろとこぼれた。
「おやすみ」
囁かれたその言葉に、答えることはできなくて。深く呼吸をすると、静かに目を閉じた。
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