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第207話 蓮

 食事が終わると、小声で主任が今日は帰ろうと囁いた。「どうしても連れて帰りたい、じゃなきゃお前の部屋でもどこでも抱くから」そう言われて口から心臓が飛び出しそうになった。  「父さん、母さん。あのさ、今日やっぱり帰る」  「あら?そう?じゃあ、またいらっしゃいね」  二人に話しかけた途端、横からザックが口をはさんできた。  「ええーっ!蓮行っちゃうの?たまには俺とも遊んでよ」  返答しようと振り返った途端に、主任に遮られた。  「俺が今度遊んでやるよ、ゲームセンターか?連れてってやるよ」  「冗談でしょ、遠慮しとく」  ザックは声を立てて笑った。あれ?この二人いつの間にこんなに仲良くなったんだろう。こうやって一緒にいつも笑えたらいいなと思う。  何故か主任が急いで帰りたがる、食事が終わると「今日はすみません、忘れ物があるので急ぎで帰らないといけないので」と母さんに告げていた。  忘れ物?会社に?どこに何を忘れたから急ぐのだろう?手を引かれて車まで連れて行かれた。そして、座席に腰を下ろした途端に口づけられた。  「蓮、帰ろう俺たちの家に。昨日の忘れ物回収しないといけないし」  「忘れ物?ですか」  「そう、気持ちの忘れ物」  「あ、そうだ、きちんと言わなきゃ。匠さん、決して別れませんから。だから男だとか女だとか関係なく、匠さんだから好きなんです。ザックが教えてくれました。今日の続きが未来だって」  「はあ、また先越されたか……俺は意外とヘタレらしいな。いつも恋人に先に告白させてる気がするよ。更に十代の子供に説教されたしな」  自分が認めていれば他に何がいるの?って確かにそうだ。  何を焦って、何を悲しんでいたのだろうこれだけ愛されて、大切にしてもらっているのに。今日、ザックと話ができて良かった。

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