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第208話 匠
上原のご両親には、この関係を誰にも言わないと約束した。その約束を違えるつもりはない。けれど上原に悲しい顔もさせたくない。
口づけるだけで、溶けそうな顔をした上原が腕の中にいる。だめだ、今日はいくら抱いても満足する気がしない。
玄関のドアを開けると同時に引き摺るようにして、まっすぐベッドに連れて行き倒して服を脱がせた。
「なあ、蓮お前あの時、もしも俺が行かなかったらどうなてた?キスされたのか?」
「え、だってあれは不意打ちでしたよね、匠さんが来なくても何もありませんって……あっ、この状態で、しつ…もん……と、か」
仰向けになった俺の上に座らせる形で、繋がったまま時々身体を揺すると、目の端を赤くして震えながら応える。
「何?どうした?本当に何も起こらなかったとおもっているの?」
「あ……ん」
「蓮?どうなの?」
「匠さん、ここ。ここに」
上原が俺の手を誘い導いていく。そして、上原の腹の上に手を置く、その上に自分の手を重ねるようにして置いた。
「ここに、たくみさんが」
ああ、もう完全に俺の負けだ。自分がコントロールできない波に連れて行かれるのが分かる。
「ん、いま……」
目を瞑り身体の中の俺の存在を追いかけている、締め付けられてまた持っていかれそうになる。
「膝立ててごらん」
「も、むりです、ささえ……きれな、い」
足を曲げて上原の体重を脚で受けてやると、後ろに少し仰け反るような体制になった上原がひくひくと震えた。
上原の膝を立てさせて手前に少し引くと、繋がった場所を中心に身体を全部俺に預ける形になった。
「こ、これ…や……ぁ」
泣きそうな顔になる。でもそれは昨晩の不安で泣きそうな顔じゃない。瞳が、ゆらゆらと俺を誘う。涙が溢れそうなその瞳がたまらない。
「綺麗だよ、蓮」
心からそう思った、その言葉につっと一筋上原の頬を光るしずくが伝って落ちた。
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