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第209話 蓮

 「.......寝た事がある、二年前のことだ」  え、何の話だろう?いきなりで頭の中は疑問符でいっぱいになった。  ついさっきまで溶かされて、指もあげるのさえ面倒で。頭を主任の胸に寄せてぼんやりしていた所にいきなりの話だった。  とくとくと聞こえてくる心地よい心音につられて眠ろうとしてたのに。  「横山と、まだ大学生だったあいつと。紺野と別れて、荒れていた時期があって。ネットで相手を探して偶然会った」  この話にどう答えるのが良いのか、正解が分からない。  「後出しで今更言うのもなんだが、あの時期のことはあまり考えたくなかった。特にお前には知られたくなかった、狡いよな」  「わかりません、それは匠さんが俺に出会う前ですから。今更どうしようもありませんよね、けれど正直知りたくはなかったような気がします」  「ごめん」と何度も口づけられて、それ以上何も言えなくなってしまった。結局こうやって俺は、丸め込まれてしまうのだろうな。それでも過去の事は仕方ないと思うしかないんだと思う。  そして明日の日曜日は2人で出かけて、また少しずつ二人の距離を縮めていけばいい。そう考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていたようで、ぶるっと震えて目が覚めた。  寒い、まだ服も着ていない。布団から出ていた肩が冷たくなってしまっている。布団にもぐるとしっかりと主任に抱きつく、  主任も何も着ていない、ぴったりと合わさる肌が心地良い。もう少し眠ろう、と眠りの淵へとダイブした。  翌日ようやくベッドから出た時はもうすでに昼近くになっていた。腹も減ったし、飯でも食いに行こうと主任に声をかけられ渋々ベッドから身体を起こした。  階下に降りると、郵便物を見てくると主任に告げ、エントランスにある郵便受けに向かった。  「匠さん、何もきてません」  悪戯っぽく笑った主任が、くいっと自分の方に引き寄せて軽く額に音を立てて口づけた。  「ええっ!」  え、今の大きな声は俺の声じゃない。驚いて振り返ると誰もいなかったはずの郵便受けの所になぜか福田が立っていた。  「な、なぜ福田君がここにいるの?」  驚きすぎたのか、思っていたよりも大きな声が出てしまった。

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